こうゆづ☆の【とおまわり】

令和元年12月に、ブログタイトルを変更しました。心の動くままに、とっちらかったテーマで書いています。

亥年は再生医療はじまりの年…12年を経た今、個人にできる取り組みをみつめる

先日、AMED主催の再生医療公開シンポジウムを聴講した。申込みのときから、この日を楽しみにしていた。

実際に聴講して強く感じたのは、以下の3点である。

  • 〈iPS細胞〉の実用のため、険しい道に挑み続ける研究者の熱い取組み
  • 献血〉に対する真摯で切実な想い
  • 〈未来を共に創造していく〉という意識に込められた願い

これらの3つの軸に対し、あきらめない姿勢を研究者たちが謙虚に示していくことで、1人ひとりが考えて自分にできる取り組みを問う…といった構成。

研究者の話は難解であるという私の思い込みも払拭され、有意義な時間を過ごすことができた。医療の知識がない人にも理解できるよう、わかりやすく説明する、軽妙なテンポで展開するということに、意識的な配慮がなされていたように思う。

 

 

再生医療iPS細胞研究の現状と課題

2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授は【iPS細胞研究のアップデート】というテーマで、再生医療の現在と展望について述べた。山中教授が注目されたのは、科学誌に発表した「成熟細胞の多能性を獲得する発見」に関する論文だ。

再生医療が大きな前進を果たしたこの論文の発表は、2007年亥の年。実用化にむけ、マウスからヒトへの治験にシフトしたのも同年である。つまり、そこから12年の時を経た今年2019年も亥の年。再生医療に携わる研究者にとって亥の年は、幸先のよいスタートの年なのだ。山中教授は、現時点で【他の治療法がみつかっていない難病】と診断された人々にむけての実用化を約束する節目の年であると感じていると、再生医療の未来を力強く語った。

 

さて、シンポジウムの核心に、話を戻そう。iPS細胞(induced Pluripotent Stem cell=人工多能性幹細胞)の特徴は、簡単にいうと以下の2つである。より詳細な専門知識が知りたい方は、ぜひ検索エンジンで調べてみてほしい。

  • 自己複製(自分で自分をつくり出す)
  • 分化(自分以外のものになる)

ES細胞や体性幹細胞も同様の性質をあわせもつが、iPS細胞のすぐれた点は、倫理的な問題をクリアし、その能力を最大限に発揮できるところにある。理論上、iPS細胞はほぼ無限に増やすことができ、しかも、様々な細胞になれるということだ。つまり、神経、心筋、筋肉、肝臓などの細胞になり、ドンドン増える細胞を作れるのだ。

 

さて、ここで質問だ。iPS細胞は、当初、皮膚からつくり出されていたが、現在は別の部分から作製されている。それは身体のどの部分でしょう。そう、答えは【血液】だ。試験管1本分の血液(リンパ球)から、1か月ほどでiPS細胞に変化するのだという。直径10㎝程のシャーレに100万個くらいのiPS細胞を作ることができ、培養を繰り返すことで増え続けるのだ。

このように、無限の可能性をもつように思えるiPS細胞だが、実際に治療の現場で実用化していくには、大きな課題が2つあった。

  • 時間がかかる(早くて半年~1年)
  • 金銭的負担が大きい

ある患者の治療のために、患者の細胞を採取し、iPS細胞を作製する方法では、時間がかかりすぎるのだ。一刻の命を争う現場においては、患者の病の進行状況は刻一刻と変わっていく。また細胞採取から移植までのプロトコールにおいて、品質評価は欠かせないものであるが、1回の評価に数千万円のコストがかかるという。

再生医療iPS細胞ストック・プロジェクト次世代構想

このような経緯のもと、6年前にスタートしたのが再生医療用【iPS細胞ストック・プロジェクト】だ。あらかじめ、患者以外の人から採取した血液でiPS細胞を作製する方法である。移植時の拒絶反応を最低限に抑えるためには、免疫タイプを一致させることが不可欠だ。

よって免疫タイプ、つまり、HLA(Human Leckocyte Antigen=ヒト白血球型抗原)型で、極めて拒絶反応を起こす可能性がすくない型をもつスーパードナーの協力を得て、iPS細胞のストックを作製するのだ。日本赤十字社との提携により、2019年度末には、日本人人口の37%、約4,500万人分のiPS細胞のストックが実現する見通しだという。

 

ここからは、【次世代のiPs細胞ストックの構想】再生医療の未来についてのお話し。

2019年現在、6年間かけて4種類のHLA型に対応するiPS細胞を作製し、日本人4,500万人分のストックの作製が可能になった。ところが、日本人全員のストックを実現するには、さらにHLA型150種類程度が必要で、世界規模まで範囲を拡大すると1,000種類以上にものぼるというのだ。この話を聞いて、あなたはどのように感じるだろうか。

6年かけて4種類…150種類を作製するためには、一体どのくらいの年月がかかるのだろう、私には関係のない話だと、必要以上に反発したり、悲観したりしないで欲しい。あくまで明るい未来の話だ。

なんと【ゲノム編集】の技術により、HLA型を変化させることができるというのだ。拒絶反応が極めて少なく、世界人口の大半に対応できる型へと誘導することで、HLA型を10種類ほどまでに絞り込むことが可能なのだという。そして、2025年を目標に、日本人1人ひとりの【My iPS細胞の作製】を実現できるような計画が走り出しているのである。このような壮大な目的地が、再生医療に情熱をかける研究者たちによって実現可能な未来として掲げられているのだ。

ここに記したことは、医療分野のほんの一握りの研究の成果である。まだ、記憶に新しい2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑教授の「自己」と「異物」を見分ける分子の発見も、既存のガン治療がひとつの転換期を迎えたといえるだろう。

 

再生医療の未来ー1人ひとりにできること

医療分野の発展は、研究者たちの並々ならぬ熱意、寝る間を惜しんで未来の医療のために粘り強く挑戦し続ける根気によって支えられ、日々進化を続けている。ましてや日本は、iPS細胞に関する研究でトップの道を、たゆまぬ努力で真摯に走り続けている。


医療の分野に携わっていなくても、1人ひとりにできる小さな取り組み。そのひとつに【献血】があるのではないだろうか。医療現場で働いていると、必要なときに使用できる血液がいかに少ないか、需要と供給のアンバランスを実感する。同時に、血液を提供してくれる人々へ心からの敬意と感謝の気持ちがあふれてくる。

日本は、少子・高齢国家である。今後、治療のために1人が使用可能な血液のストックは、ますます危機的状況になることが容易に想像できる。かくいう私は、献血に適さない残念な体質なのだが、まずはトライしてみること、自分に出来ることをイメージして、行動につなげていくこと。あなたにとっては、当たり前で苦にならない、その行動が、誰かの助けになっているかもしれないのだから。

 

未来は、誰かにつくってもらうものではなく、この地球上にいる1人ひとりが、大いに参画し、介入していくことで創造していくことができるのだ。もう、傍観者ではいられない…。時には、巻き込まれてみることも必要なのかもしれない…。そのようなことを、自分の乱れきった日常生活を省みながら考えた、午後のひとときであった。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

Kohyuzu(こうゆづ☆)